「惑星9の休日」読んだ

町田洋 - 「惑星9の休日」

町田洋 先生の短篇集。国マガのオオキさんが貸してくれました。
あの人なんでも知ってるし持ってるなぁ

感想

ひっくるめて一言で言うと、「うつくしい」漫画でした。

総評

右脳か左脳かでいうと、右脳って感じの作品だと思います。
詩的、文学的なお話と言えそうです。
ただし作りはカッチリしていて、構成に無駄はありません。テンポもいいです。

8つの短編が収録されていますが、どの作品にも共通して言えそうな点は、クライマックスシーンで全部いっぺんに精算出来るように構成されている、という感じがします。

といっても、「巧妙に伏線が張り巡らされた非常によく出来た話」というよりは(プロット自体の完成度は非常に高いですがそれよりも特筆すべきは)、世界観もキャラクターも絵柄も設定も、すべてがクライマックスシーンの方を向いていて、読みながら無理なくお話を受け入れる態勢にしてくれる、という感じなんですね。そういう、「読者の心の運び方」がものすごく上手です。

もうちょい詳しく

線が非常に美しいです。
ほぼ均一の太さの、非常に細く繊細な、真っ直ぐなタッチなのですが、といって決して「均質」ではないのです。ほんの微妙なゆらぎがあります。そして、線を重ねない。いつだってどの線だって一本ずつ描かれています。

そういう、ほんのわずかな差異の積み重ね、徹底的に、美しいと感じられる部分のみを抽出した様な、息を吹きかけたらどっかいっちゃいそうな、キレイさがあります。

話もそんな感じです。ていうとすげー身も蓋もないのですが。
ていうかつまり、なんというか…

漫画には色々、たくさんの要素があるものでして、乱暴に列挙しても
「画力」「構図」「プロット」「構成」「セリフ回し」「世界観」「キャラクター」、とか、それはもうキリがないくらい、小難しい話なんていくらでも出来るくらいの要素が存在するんですが、「惑星9の休日」は、その全てが全く同じ方向を向いている感じがするんですよね。

「惑星9の休日」のための絵柄であり、話でありセリフでありコマ割りであり、ていう、本当にうまくいえないんですけどね。全部ガッチリ噛み合ってるんですね。ルービックキューブみたいです。実はそれって凄く難しいはずなんですよね。

「絵だけは間違いなくうまい」「話作りが上手」「他にはない発想」って風に、どっかトガり、突出した部分を一つでも持っていれば、漫画作品ってのは存在する意味を持つものです。「そのために読める」からです。
ですから、「まんまるな形」をしている作品というのは、代替品というか、他の作品で間に合っちゃうってこともあるというか、つまり「物足りなくなってしまう」みたいな印象を持っちゃうこともあると思うんですけど。(逆もまたありますね、まんまるな作品ひとつあればいいじゃないか、という。ブラック・ジャックだけ本棚にあれば一生読んでいける、みたいなものも当然あると思います)

この漫画はなんというか、まんまるにしても、見たこと無いけど凄く見覚えがあるというか、そういう、どっちも満たせる感じというかですね。
「懐かしさもある新しさ」っていうとちょっとズレるんですよね。
初めて「真昼に浮かぶ月」を発見したときの感覚に似てます。
「月って夜だけ見えるんじゃないのか!しかも黄色じゃない!でもあれ月なのかすげー!」みたいな。
全然知らない言語圏のことわざと日本のことわざが似てた時に受ける衝撃というか。なんていうんですかね。

たぶん、誰にでもある感覚、慣れすぎて見落としてしまうような情動にこそ、なんかしらのドラマがあるものなのかもしれません。
「よく考えるとあれってすごくいいものだったんだな」なんて思い出の一つや二つ、割と持ってる人多いと思うのですが、幾億人も持つであろうそんな思い出と共通する「何か」をこの人はなんとなく把握していて、地球じゃない星の人々の生活を通じて、その「何か」がなんであるかを説明しているような感じがしました。

そういう作品でしたね。不思議と誰にも受け容れられそうな雰囲気のある作品でした。俺は結局どこまでいっても俺でしかないのでなんともいえませんが、少なくとも漫画のほうから読者を拒むことはないでしょう。

何が美しいのかを教わってるような感覚さえ覚えました。
きっと作者の町田洋先生の、自分で信じている美しさを、丁寧に丁寧に、人に聞かせてわかってもらえるように描いてるのかもしれませんね。漫画家に対して「先生」と呼ぶのは、なんだかいいですよね。
借りて読んだものですが、本棚に欲しいですね。

8つの中で一番好きな話は本の題名にもなってる「惑星9の休日」、次点で「UTOPIA」「衛星の夜」でした。

“「惑星9の休日」読んだ” への2件の返信

  1. もう読んだんだ、早いな!

    俺も読んでみたらすごく好きなマンガだった。面白いマンガというより好きなマンガ。
    絵も内容もたんたんとしていて雑味がなくて、ワンアイデアのSF短編集だから星新一を思い浮かべたけど、このマンガは愛とか優しさに溢れてるよね。そこがよかった。

    貸してる他のマンガ、まだ読んでなければパラッとめくってみてほしいな。
    ニット坊やならきっと好きなんじゃないかと思って渡したからさ。

  2. どうもです!

    もともと興味があったのと、チラッとめくってみたらそのまま最後まで読めちゃったという感じです。喉乾いてたみたいな感じでした

    長々と借りてる割に、諸々、まだ読んでなくてすみません。ちょっとずつ読んでみたいと思います。確かにどれも好きそうです。あざす!!

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